写真 生きのびるためのデザイン 表紙

chapter 1
生きのびるためのデザイン

私はいま(株)ソーシャルデザインネットワークスというデザイン事務所を主催している。
これまで広告デザインのかたわら、サインや建築の仕事もおこなってきたが、もっと深く社会の成熟や価値の蓄積に寄与できるデザインに関わりたいと考えた末、この事務所を設立することにした。ちょっと恥ずかしいけど、「幸福のデザイン」の実践である。
広告デザインに無力感を覚えた20年程前から、私の中に居座り続けてきた「デザインの価値のリストラ」でもある。
この思いは、私が大学在学中に手にした一冊の本が始まりだった。1974年に晶文社から出版されたヴィクター・パパネックの「生きのびるためのデザイン」である。
大阪万博が開催され、日本中が高度成長に向かって走リ続けている中、「デザインを消費の道具にしてはならない」というパパネックのメッセージは、当時の私の心には響かなかった。
「生きのびるためのデザイン」というショッキングなタイトルに惹かれて購入した本だが、斜め読みの後、我が家の本棚で数十年間ホコリを被っていた。
昨年改めてこの本を読み返した。共感する内容と違和感を覚える部分とが混在しているが、何よりも時代の先取りに驚いた。
ここで述べる「幸福のデザイン」はデザインの社会的な価値を整理したもので、彼のメッセージを引き継いでいるものではないが、45年間私の心の中のどこかにパパネックの言葉が残っていたのは間違いない。

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「生きのびるためのデザイン」
著者 ヴィクター・パパネック
訳者 阿部公正
発行者 株式会社晶文社
発行 1974 年

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