幸福のデザイン

このメッセージは公益社団法人日本サインデザイン協会が、2011年から2014年まで日本各地で開催した「八人塾/日本サインデザイン協会8人のあつい塾長によるプロフェッショナル塾」で定村がプレゼンテーションをした「幸せのデザイン」がベースとなっている。
ここに掲載している原稿は、2016年2月に共著として発行した「伝えるデザイン」(発行元/公益社団法人日本サインデザイン協会、発売元/鹿島出版会)第2章の1「幸せのデザイン」に加筆したものである。

広告のデザイン

デザインの仕事を始めて約40年が過ぎた。大学で映像デザインを学び、卒業後はその興味のまま、広告代理店でコマーシャルフィルムをはじめとする広告の立案制作を続けた。
広告の制作とは、企業や商品のメリットを簡潔な文章で表現し、それに画像をつけていく作業である。15秒や30秒の間に、生活者の目と耳を瞬時にとらえ、記憶に残るメッセージを伝えるという仕事は、当時の私にとって、とてもスリリングでダイナミックなものであった。
クライアントへのプレゼンテーションと、数十人にもおよぶ製作スタッフへの指示と調整。ひとつのキャンペーン広告が仕上がるころには、すでに次のプレゼンが待っていた。完成した広告ツールはテレビやラジオ、駅のポスターとなって生活者の気持ちと消費行動を掻き立て、数ヶ月後には跡形もなく消えていく。
泡のように短い寿命だからこそ、広告には瞬間的な時代性と、心の隙間に入り込む繊細なアプローチが求められる。そして広告デザインの出来不出来は、商品の売り上げ数字で明確に評価される。
これが面白かった。
毎日が新たな創造の連続であり、毎日が消耗の連続でもあった。
約20年間、そんな広告の仕事を続けた。その間にいただいた広告賞の受賞リストは経歴書の中に残ったが、他には何もない。私が手がけた広告の仕事は社会に、人々の暮らしに、何も残せなかった。

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